その日の夕方、仕事を終えた私が館を出た直後スマホが鳴った。

『和桜?』

「醍?」

待ち焦がれた声が耳に響いている。

たった一週間離れていただけなのにこんなにも愛しい。

恋の魔物に取り憑かれているから?

『今晩はそちらに帰れそうだよ』

「家の方は大丈夫なの?」

冷静に返すも、醍に帰ると言われてその場に飛び跳ねたいくらいの心の高揚を感じている。

『帰ったらゆっくり話すよ。また明日は家に戻らないといけないんだ』

「・・・・・・そ、う」

明日は戻ってしまうんだ。

喜びに膨らんだ風船が一気に割れた。

こんな一喜一憂は三十路を過ぎると若い頃と違って堪える。

でも、今日は会えるんだ。それだけでいいじゃない。

なんとか自分の気持ちを鼓舞しながら続けた。

「何時頃帰るの?晩御飯は一緒に食べれる?」

『こちらの仕事を片づけたらすぐ帰る。二十時くらいになっちゃうけど一緒に晩御飯食べたいな』

「わかった。用意しとくわ」

『その後、和桜が欲しい』

その言葉が先週愛された余韻を呼び起こし、一気に体が熱くなる。

「お父さんとのこと、話してくれるんじゃないの?」

気持ちの高ぶりを悟られないように、小さな声で尋ねた。

『だめ?』

だめ?とか聞かないでほしい。

どう答えていいかわからず黙っていたら、彼が朗らかに笑った。

『だめって言われても聞かないけどね』

「ほんとくっだらない」

熱くなった頬を手で押さえながら苦笑した。

大好き。

醍のこと、どんどん好きになっていく。恐いくらいに。