私よりも随分若いのに、何かを悟ったような落ち着きと少年みたいな無邪気な部分が見え隠れする。

あんな絵をさらさらっと描けるなんて、多分凡人じゃない。

だけど、単なる芸術家志望っていう感じでもなかった。

高尚で、きっと私なんかとは無縁の世界に生きているようなそんな印象を受けていた。

優しくてまっすぐな目は、どことなく私の好きなゾウの目に似ていて、悪い人ではないとも感じている。

こんな短時間で完全に自分の気持ちは彼を肯定していた。

久しぶりだった。

こんなにも誰かのことをもっと知りたいと思ったのは。

吉丸さんは腕時計に目をやると、「もうこんな時間か」と言って立ち上がる。

「じゃ、お邪魔しました。俺は退散するからゆっくりゾウと向き合って」

彼は軽く私に手を挙げると、颯爽とかけ足でクスノキの向こうに見える動物園の出口へと去って行った。

吉丸さんのいなくなったベンチに座る私は一気に孤独感が増す。

きっともう二度と会うことのない彼の爽やかなオーディコロンの香りがまだ微かに残っているような気がして、目をつむりすーっと息を吸い込む。

目を開けた先にいたゾウは長い鼻を持ち上げて首を振りながら笑っていた。