「この間の無名の芸術家たち展は初めての試みとあってコンセプトは特になかったらしいんだが、次のコンセプトはこちらの十周年に合わせたテーマを決めることになってる。来月早々にでもまほろばさんと企画の打ち合わせがあるから、それまでに二人とも企画立案お願いするよ」

「はい!了解しました」

植村さんは頬を紅潮させ笑顔で大きく返事をする。

私はまだ自信も実感もないまま、植村さんに続いて小さく「はい」と答えた。

席に戻ろうとした時、館長に呼び止められる。

「そうだ、和桜ちゃん」

「はい?」

振り返ると、館長が笑顔で尋ねた。

「絵は描いてるの?」

「はい、以前より少なくはなりましたが、ぼちぼち描いてます」

「来年の無名の芸術家たち展に出してみたら?」

思わず、目を見開いてゴクンと唾を飲み込んだ。

「わ、私の絵をですか?」

「いや、まぁ今回のコンセプトにもよるだろうけど、あの展覧会はプロアマ問わないからね。一度応募してみてはどうかなと思って」

「そんなこと、考えもしませんでした。人前に出せるような絵じゃないと思ってますし」

「いやいや、無理矢理じゃないんだ。もし、和桜ちゃんが少しでもそういう気があったら遠慮せずに出したらいいなと思っただけだよ」

館長は、頭をポリポリ掻きながら気まずそうに言った。

きっと私に気を遣ってくれてるんだろう。

それも、館長の優しさだとわかっていた。

「ありがとうございます。もし、コンセプトに合う絵が描けそうなら応募してみようかな」

館長は優しい目をして頷くと、「こないだ発注した小学生向け展示会の打ち合わせに言ってくるよ」と言って上着を羽織り事務所から出て行った。