「俺がその闇から和桜を守る。ずっと笑っていられるように」

醍が耳元でささやく。

『和桜』って呼び捨てにされたけど、なんだかその方が自然で心地いい響きに感じた。

「醍」

私も小さくその名前を呼んでみた。

「そっちの方がいい」

醍は静かに笑うと私の髪をそっと撫でた。
ただそれだけの手の動きなのに、私の中にピリピリと甘い電気が走る。

「好きだよ、和桜」

昨晩の彼の寝言のフレーズと重なって聞こえた。

戸惑う私を醍は更にぐっと引き寄せる。

「好きだ」

彼の唇が私の首筋に微かに触れ、また体中に電気が走る。

「うん」

「好きすぎてどうにかなりそうなくらいに好き」

「うんうん」

「和桜、好きだよ」

「わかったから」

私は甘い空気に呑まれそうな自分を必死に堪えながら、彼の背中をポンポンと叩いて笑った。

誰かを好きになる瞬間。

好きだと言ってもらった瞬間が一番幸せだ。

幸せのピークはそこにあって、そこから少しずつ落ちていく。

恋ってそういうもの。

今幸せな時をしっかりと噛みしめたい。

この先にある未来で後悔しないように。

そんな風に考えてしまう自分はやはり素直じゃない。

忘れられない傷が、誰かを好きになるたびに疼くんだ。

「うちに帰ろう。和桜の話聞かなくちゃ」

彼の体がゆっくりと離れていく。

離れたくない。

思わずその腕をぎゅっと掴み、彼の目を見つめた。

「そんな風な顔されたら、俺、理性効かなくなるよ」

醍の瞳が熱く潤み、頬が僅かに緊張している。

「キスしてもいい?」

彼の手が私の頬に触れ、いいとも嫌だとも言わないうちに彼の唇が降りてきた。

柔らかくて優しいキス。

一気に顔が火照る。まるで初めてキスした時みたいなときめきに胸が震えた。

「神様に怒られちゃうね。こんな場所でキスなんかしてさ」

醍は恥ずかしそうな顔で頭をかくと、私の手を取って歩き出した。

こんな表情するんだ。

いつも強気な醍の照れた横顔。

その手を思わずしっかりと握り締めた。