「そもそも仏教の言葉なんだけどね。『色』っていうのは物質や現象のことで、それらは実際物質が集まっているにすぎなくて、本体は結局のところないに等しいってこと。ないに等しいって事がすなわち『空(くう)』ってことなんだ」

「ますます訳がわからないわ。私には難しすぎる」

その時、醍が私の手をぎゅっと握った。

ドキッとして彼の顔を見上げる。

「こうして和桜さんの手を握ってるけど、その心は握れていない。和桜さんを掴んでいるはずなのにその本質は掴めていないってこと」

彼はさらに強く私の手を握った。

「俺のやってることは全て空を掴むものなのかもしれないって最近思う。俺のやりたい仕事やアートにしたってそうだ。その先に何かあるのかって言われたらわからない。やったところで掴めてるのかどうかもわからない。だけどさ、俺、なぜだか絶対空を掴む自信あるんだよね。掴めないものを掴めるような気がしてる」

醍は私の手を握ったまま空を見上げた。

「和桜さんの手を握ったら、そんな自信がわいてくるんだ。君の気持ちはわからないけど、ちゃんと和桜さんの体温もその形もしっかりと俺には伝わっているから。そこにないんじゃなくて、そこに確かにあるんだ。だからきっと空も掴めるはずだってね」