醍に掴まれた右手がジンジンと熱い。でもその手を逃れる術は思いつかなかった。

手をつないだまま、坐禅を行うという僧堂に迎え入れられる。

ひんやりとした床はぴかぴかに磨かれて美しい。

ほのかにお香が漂っていた。

あらかじめ用意されていた座布団に足を組んで座ると、僧侶に坐禅の心得を教えてもらいそれは始まった。

最初はあまりに急な展開に戸惑ったけれど、坐禅を組み呼吸を整えているうちに不思議と雑念が消えていく。

僧侶の袈裟が歩くたびに擦れる音が心地よい響く以外は静寂に包まれている。

無の境地ってこういうことを言うんだろうか。

時々体が緩んでくると、僧侶から私の肩に軽く驚策を頂く。

それは、自分の心の緩みを自分自身に気付かせてくれるような柔らかい振動となって体を走った。

坐禅なんて初めての体験だったけれど、こんなにも清々しい気持ちになるものなんだ。

全てが終わると別室に移動し、朝食を頂いた。

おかゆとお味噌汁と香の物といたってシンプルで体に優しいものを少しだけ。

普段食べているものよりも味付けも薄く淡泊なのに、とてもおいしく体中に染み渡っていく。

「どうだった?坐禅体験」

お茶を飲みながら、醍が私に微笑む。

「最初は何事かと思って驚いたけれど、とても気持ちのいい体験だった」

「そうだろう?」

「醍さんはよく来るの?」

彼はお茶を飲み干すと、茶碗をお盆の上に置き手を合わせた。

「たまにね。邪念に自分が負けてしまいそうになったときに来るようにしてる」

「邪念?」

「例えば・・・・・・」

醍は妙に真剣な眼差しで私をじっと見つめながら言った。

「和桜さんへの思いが押さえらなくなりそうな時、とかね」