醍の助手席に乗ったけれど、辺りは夜明け前でまだ薄暗い。

朝なのに暗いっていう不思議な空気に取り込まれる。

昔から朝方の暗さは夜と違ってどことなく前向きになれた。

一日の始まりが訪れる前の静寂。そんな少し神秘的な時間に醍の隣にいることがふと現実ではないような気がしていた。

昨晩からの影響だろうか。ずっと夢を見ているような。

サングラスを外し、バッグに直す。なんだか今の景色をサングラス越しに見るのがもったいないような気がして。

そんな私に気付いて、醍は微笑み頷く。

「和桜さんの瞼、大丈夫だよ。少しくらい腫れてたってかわいい」

かわいい、って?

年上の私を捕まえてかわいいだなんて失礼な。

思わず軽く醍をにらんだけれど、本当は嬉しかった。

年下であろうと、年上であろうと、きっと醍にそんなこと言われたら嬉しい。

醍だから嬉しいのかもしれない。

彼は嘘をつかない人だって思っていたから。

車の加速度が増し、高速に乗る頃には空は白み、東の空が朱色に染まってきた。

空の端っこを燃やしているような鋭い朱色の朝焼けが次第に空全体に広がっていく。

醍の横顔も私の手の甲もすっかりその色に染められていた。

「朝日だね。もうすぐ着くよ」

醍は口もとを緩めると、私の方に少しだけ視線を向けた。