「様子見て腫れがひいていくなら気にしなくていいよ。昨晩、普段と違うようなもの食べた?」

「別に。お酒飲んだくらいかな」

「疲れがたまってたり、急にストレスがかかったりした?」

「急にストレス、ね」

昨晩の彼の寝言のせいで一睡もできなかったけど、それはストレスなのかな。

顔を上げたら心配そうに私の顔を覗きこむ彼と目が合ってすぐに目を逸らした。

「やけに目の腫れに詳しいのね。なんだか診察受けてるみたい」

彼から顔を背けたまま言った。

「俺がまだ中学の頃、妹が和桜さんみたいに急に目が腫れてさ。医者にそんなこと言われてたのを思い出しただけ」

私は彼の手からそっとサングラスを受け取るとまたそれをかけた。

「気にしてるの?」

醍がくすっと笑いながら私を見つめる。

サングラス越しの方がまっすぐ彼を見れるような気がした。やっぱり今日はかけていた方がいいかも。

「少しね。腫れがもう少しひくまでサングラスかけてるわ」

「俺は和桜さんの瞼が腫れていようと腫れてまいと気にならないから」

え。

醍は、その言葉の真意を計りかねて立ち尽くした私の肩に手を置き玄関に向かうよう促した。

少し触れられた肩は、そこに心臓が移動しちゃったんじゃないかしらと思うほどにドクンドクンと脈打っていた。

だけど、彼はいつものままだ。

いつものようにさわやかに笑ってる。

昨晩のことは、ひょっとしたら私の夢だったのかもしれない。

なんとなくそんな風に思わないと一人損した気持ちになる。

損得の問題でないことはわかってるんだけど、恋のトラウマを抱えているからかそういうことも素直に受け入れることができなくなっていた。