その張り詰めた視線と素早く動かす彼の手元に一気に引き込まれ、思わずごくりと唾を飲み込んで見つめる。

なんだか素人っぽくないその雰囲気にいつの間にか釘付けになっていた。

その時ふいに彼が視線を上げ私に視線を向ける。

「ん?」

その目はゾウを見る目と違ってやはりとても優しくて、こんなこと思っちゃいけないと思いつつ何もかも許してしまいそうになるほどに澄んだ目だった。

思わず胸が締め付けられるように苦しくなって彼から視線を外し言った。

「あなたも絵を描くのね」

「ああ。俺も今日はゾウを描きに来たんだ。君と同じ」

ふぅと軽く息を吐いた。

「さっきはごめんなさい。絵を描くならベンチに座った方が描きやすいからどうぞ座って下さい」

「え。いいの?」

彼の目がうれしそうに笑った。

「じゃ、遠慮なく」

地面から腰を上げると、さっきよりも少しだけ私に近い場所に彼は座る。

彼の白いシャツからふわっと爽やかな香りがした。

至近距離で見ると、やはり目も鼻も口も全てが美しく整っていて、非の打ち所のない顔をしている。

組まれた足はとても長くて、組んでもまだもてあましていた。

彼は再びゾウに視線を向け描き始め、前を向いたまま言った。

「俺、君の絵見ないから安心して描きなよ」