話さなくていいといったのに、やはりしばらくお世話になるからと言って彼は今日までのいきさつを話し始めた。


「俺はもともと江戸時代から続く京友禅を生業にしている家の子で、父は今社長をしている。これまでの京友禅の形を守り続けてきた古風な人間だ。

もちろん、古き良きものを守り続けることはとても大切だし、日本の伝統文化にとっても重要なことだと思うけれど、それだけじゃこれから先、家の会社を守ってはいけない。時代は刻々と流れていくわけで、その流れに乗ることも守ること同様、いやそれ以上に必要なことだって俺は思ってる。

だから、俺は和だけに拘らず洋にもこの京友禅の技術を駆使してもっと誰でもが身近に手にとってもらえるような雑貨やあとは和装だけでなくドレスにも参入すべきだと父に提案したんだ。

でも、父はそんな安売りはできないと断固として拒否。
だから俺はある雑誌記者に取材を受けた時に父には内緒で俺の持論を提言してやった。それが父の目に留まってね。大激怒さ。お前は勝手なこと言いやがって、この家が守ってきたものを踏みにじるつもりかってね。そんな思いは俺には毛頭ないのに、結局俺の気持ちなんかこれっぽっちも理解できてなかったってわけだ。
もう話し合う余地もないと感じた俺は家を飛び出した。まさにあの日の夜にね」