「やっぱ女性の部屋だね。いい香りがする」

そう言うと、醍はいたずらっぽい表情を浮かべてわざとらしく深呼吸した。

「ばかね」

私はそんな彼にくすっと笑うと、そのままヤカンに火を付けた。

ソファーに座る彼の前に沸き立てのお湯で淹れたコーヒーを置く。

「ありがとう」

そう言う彼の正面に、私はそのまま床にクッションを敷いて座った。

コーヒーを一口飲んだ彼が言った。

「どうして家を出ることになったかっていういきさつを和桜さんにはきちんと説明するよ」

「別に言いたくないなら言う必要ないわ。私あれこれ人のこと詮索するの好きじゃないの。自分もされたくないし」

「俺は和桜さんのこと色々詮索したいけどね」

コーヒーカップを口につけながら、醍はニッと笑う。

そんな不敵な表情で私を見つめる彼にドキッと顔が熱くなって慌てて目を逸らした。

「和桜さんって、時々少女みたいな表情するから、俺ドキドキする」

「な、何言ってるの。年上をからかわないで」

でも、もうこれ以上彼の顔を見つめ返す勇気はなく、うつむいたまま黙った。

よく考えたらこの部屋には男女2人きりだ。

少しでも変な空気を感じたらすぐに追い出してやるんだから。

そんなことを必死に自分に言い聞かせながら、高ぶりそうになる気持ちを抑え込んだ。