「どこいこうか」

「どこでもどうぞ」

私は窓の外に目を向けると、心の動揺を悟られないようできるだけ平静を装う。

「実を言うと俺、今家を出てきてるんだ」

「家を出てる?」

あの吉丸家を出てるってこと?

彼の家出は、恐らく一般の人がする家出とは訳が違うような気がして思わず彼の方に身を乗り出した。

「親父と大喧嘩してさ。丁度和桜さんと食事したあの日の夜から、家を出て都内のビジネスホテルに泊まってた」

そうか。だからあの日の夜電話がなかったんだ・・・・・。

ずっと引っかかっていた彼の言動に納得がいき安堵した。

「今もビジネスホテルに泊まってるの?」

「いや、それが家中で俺を捜し回ってとうとうホテルにいることがばれちゃってね。今、慌てて逃げ出してきたとこ」

どうりで、さっきの電話で慌てていたわけだ。

「なんだか昔観た映画の『逃亡者』さながらのシチュエーションだね」

ホテルから逃げ出してきた彼の姿を思い浮かべながら、思わず噴き出す。

「笑うなよ。俺真剣に困ってるんだ。親父が俺の言うことを認めてくれない限り家に戻るつもりはないから。それくらいの覚悟で出たからね」

「ごめんごめん。それにしても、一体私に何ができるっていうの?」

しとしととフロントガラスに水玉をはじいていた雨が止み始め、雲間から明るい光が差し込んできた。