駅についたものの、このままこんな気持ちで一人家に帰るのも辛くて、駅地下の本屋に寄ることにした。

そろそろ毎月買っている美術雑誌『TOP ART OF WORLD』が出ている頃だと思い出す。

雑誌売り場を目指すと、予想通りその雑誌の最新号が売られていた。

それだけ買って、一人駅前のカフェに入りカウンターテーブルの席に座る。

カフェオレに口をつけながら、買ったばかりの雑誌をカウンターに広げた。

いつも真っ先に読む好きな特集ページがある。

最近注目されている若手芸術家が見開きで写真とその作品とともに紹介されていた。

早速そのページを開く。

『若き伝統文化継承者 京友禅『吉丸』染匠(せんしょう) 吉丸 醍』

吉丸 醍?

え?

見開かれたページに顔を近づけて、もう一度書かれた名前を確認する。

吉丸 醍って、あの吉丸 醍?

半ページにわたって彼の全身写真がモデルのように掲載されていた。

その姿は、まさに1週間前に二人で高級料亭で食事をしたあの彼だった。

思わず口に手を当てて、声が漏れそうになるのを飲み込む。

京友禅『吉丸』って、あの有名な吉丸家の息子だったの??

心なしか震える手で、文字を追っていく。

江戸中期から代々続く老舗『京友禅吉丸』の十代目が醍ということになるらしい。

現在、九代目社長の父親から染匠の修行を受けている最中であるけれど、その裏で大手服飾メーカーの『InWORLD』とのコラボで彼のデザインしたTシャツが若者の間で流行しているとのことだった。