フォークを入れると、まだ熱々のカラメルがパリッと軽い音を立てて割れた。

豆乳でできた柔らかいムースがそのカラメルと合わさる。

食感は全く異なるのに、口の中では甘く一つにとろけた。

「本当においしい」

「うん、ここはいつだって間違いがない」

醍と目を合わせながらシブーストを頬ばる。

でも、このデザートを食べたら帰らなくちゃ。

明日もまた朝早いから。

きれいになったお皿を見つめながら、少しずつ冷静になっていく。

冷静になろうと努めていたという方が正しいかもしれない。

「そろそろ帰らないと」

私は彼の方に顔を向けて小さく言った。

「もう帰る?」

「ええ、明日の朝も早いの」

彼がふぅーっと息を吐く。

デザートについていたコーヒーを飲み干すと醍は立ち上がった。

「じゃ、行こうか」

「はい」

さっきまで二人で笑い合ってた時間が、夢かもしれないと感じていた。

部屋を出て、私の前を歩く彼の背中を見つめながらこれが現実だと言い聞かせる。

お会計で醍は「ここは俺が」と言って聞かず、かなりの高額だろうと思われる食事代をご馳走してくれた。

「ごちそうさまでした、ほとんど他人のあなたにご馳走してもらうなんて申し訳ないけれど」

「・・・・・・ほとんど他人、か」

エレベーターで降りていきながら、醍はふっと口もとを緩める。

地下駐車場に着き、車に乗り込んだ。

「家まで送るよ」

「いえ、いいわ。この近くの駅で降ろして」

「こんな夜遅くに女性を一人で返せないよ。何かあったら大変だし」

「何言ってるの、私はもう三十だよ。何もないって」

彼の方を見ずに軽く笑った。

「頼りない三十だっている」

私の横で冗談なのかそうでないのかわからないような口調で言った。

「何かあったら心配だから、とりあえず連絡先だけ教えてもらえる?無事家についたら連絡して。誘ったのは俺だから責任ある」

そう言いながら、醍は自分のスマホのメールアドレスと電話番号をメモに書き、私に手渡す。