さすがチーフが選んだだけあって、その三点ともが印象深い絵だった。

でも、私にはその中の一点しか目に入らない。

どうしようもなく惹き付けられる絵。

真っ白なキャンバスに薄青色の筆で描かれた一匹のゾウ。

そのゾウは正面からじっとこちらを見据えている。

その目からは涙が溢れていた。その涙は眩く光るビーズを細かく縫い付けられ表現されている。びっしりと丁寧に装飾された色とりどりのビーズの涙はとても美しかった。

シンプルだけれど、その作者の切なる思いが心に迫ってくるような。

「この絵」

私はそのゾウの絵を指刺した。

「ん、この絵かい?君はこれをトップに持ってきた方がいいと思うのか」

チーフはその絵を持ち上げ壁に合わせる。

目線に上がってきた絵はさらに迫力があった。こんなにシンプルな絵なのに。

「いえ、トップではなくラストがいいと思います」

私はそのゾウの涙を見つめながらチーフに言った。

「ラスト、か。トップでもいいと思ったが、どうして?」

トップでもきっと映える絵だと思う。

だけど、ラストに持って来た方がこの絵画展の印象が際立つような気がした。

そのゾウの涙はきっと誰もが心を奪われる印象強さを放っていたから。

でも、そんなこと私みたいなものが偉そうに言うのは憚れる。

「はっきりとした理由はありませんが、なんとなくその方が引き締まるような気がして」

「うーん」

チーフはその絵をもう一度床に置き、腕を組み眺めた。

「そうだな。君の言うようにラストに持って来てみようか」

「え?」

まさかこんなにあっさり同意してもらえると思わなかった私は驚いてチーフの顔を見上げた。