「すみません!」

慌てて謝ると、「大丈夫ですか?」という言葉が返ってきた。

日本人?!

よかった。話の通じる日本人と遭遇できただけで心から安堵する。

薄暗い中でまだその顔がわからないけれど日本人なのは確かだ。

「和、桜?」

二人組の背の低い方が女性の声で言った。

「え?」

どうして私の名前知ってるの?

その時背後からバイクの明かりが目の前にいる二人をふわっと照らした。

「・・・・・・」

ゴクリと息をのんで体が硬直する。

その二人は、私が二度と会いたくなかった二人。

会ってはいけない二人だった。

元フィアンセの高橋雄弥と元親友の三浦珠紀。

私が恋のトラウマに陥る原因を作った二人。

そういえば二人は結婚が決まっていたとか言ってたっけ。

ひょっとして新婚旅行でここに来ているの?

そんなことはどうだっていい。

明かりに照らされた二人の顔は、一瞬でまた暗闇にかき消されたけれど、二人が驚愕し動揺している瞳は鮮明に私の脳裏に焼き付いていた。

そして二人が腕を組んでる姿も。

もう忘れたはずの過去なのに。

今は醍のことしか見えていないはずなのに。

どうしてこんなにも私の心は未だにその闇に引き込まれていくの?

元彼に気持ちがあるからじゃない。これだけははっきり言える。

だけど、かつて私を貫いたトラウマは未だにあの時に味わった人間への恐怖を蘇らせるんだ。

私は身動きが取れないまま二人と向き合っていた。

彼らもまた何も言わず立ちつくす。

「和桜、一人?」

おそるおそる珠紀が声をかけてきた。

一人。

そう言おうとしたら急に苦しくなって胸を押さえた。

「大丈夫?和桜?」

彼女の手が私の腕に触れる。

「触らないで!」

思わずその手を払いのけた。

嫌な自分がむくむくと体の奥からわき出てくる。

胸を押さえたまま動けなくなった体を固く丸める。

誰か助けて。

醍!