「まぁ、もともと『TUYUKUSA』は忙しい人間だからね。今回頼むのも正直気がひけていたんだが。彼の絵のファンは多いからねぇ」

そう言いながら、私の方に顔を向けてニヤッと笑う。

「もう、チーフまでそんな冗談!」

チーフを軽くにらみながらそう言うも顔が熱くなる。変に意識しすぎなのは私の方なのに。

そこへ植村さんが少し遅れて部屋に入って来た。

「遅くなりすみません!問い合わせの電話が長引いちゃって」

「植村さん、何かいい案ない?一点だけ穴が空きそうなんだ」

「穴?出展されないってことですか?」

「ああ、そうさ。穴が空きそうだけど空けられないんだ」

「えー、それは困りましたね」

植村さんは腕を組み視線を天井に向けしばらく考えていた。

「あ!」

「何?!」

皆が一斉に植村さんの方に顔を向ける。

「和桜ちゃんは今回応募したんだっけ?」

「へ?」

急に私に振られて一体何のことだかわからなくなる。

「なんだ渡瀬さんも絵を描くのか。今回ひょっとして応募する予定だったのかい?」

山田さんがお茶をすすりながら尋ねた。

「いえ、まぁ。っていうか結局絵は描けず仕舞いで」

「何か他に作品はないの?とりあえず見せてよ。行けそうなら使わせてもらってもいいかい?」

思わぬ展開に動揺が隠せない。

体中が沸き立つような感覚だった。

「でも、私の絵、皆さんにお披露目できるような絵じゃないですし、ましてや『TUYUKUSA』さんの穴埋めだなんて大それたこと・・・・・・」

「万が一の保険用に、一度見せてもらえない?採用するかどうかは申し訳ないがこちらで検討させてもらうけどね」

「それは、もちろんですけど、本当にいいんでしょうか?」

ドキドキしていた。

いや、久しぶりにワクワクしていたかもしれない。

絵を評価されることは正直不安だったけれど、『TUYUKUSA』さんのためになるならそれはそれでいいような気がしていた。