Contract marriage ―契約結婚

悠夏は、自分の身体の上に覆いかぶさっている吉澤を見つめ…

「どうして…、何も言ってくれないんですか?」


涙声になりながら…、つい昨日まで…愛人だと思っていた男に懇願する…

「…どうして…?」
《…こんな…酷い裏切り…なんて…っ》


「……」

その悠夏の問いにも、吉澤は無言で愛撫を重ねていく…

「やめてっ! お願い…っ!」


紘一は、抵抗する気も失せた…悠夏の手を緩め…、その涙に濡れた頬に触れる…

「…悠夏、愛してるよ…」

そぅ…、口付けをする…

その、口付けを受けながら…

「……っ」
《これが…、紘一さんの愛情…っ?


こんなの…愛じゃないわ…


私が、求めていた…愛じゃない…っ!》


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翌日。。

早朝から、悠夏の姿がなかった…

心配になった吉澤は、ソファで本を読んでいる紘一に問いただした…

「ホテルのラウンジにいるだろうから…お前が、迎えに行けよ…」

めんどくさそうに…、それだけ答え…

「2人で、昼飯でも食いに行けば?」

…とまで言う始末…

「ちゃんと、説明すべきかと…」

吉澤の言葉に、読んでいた本からようやく視線を上げた…

「説明…? 何の?」

「だから…、紘一さまが何故、そのようなことをするか…など…」

確かに、説明…はしなくてはいけないのかと思う…が…

めんどくさい…というのが念頭にあった…

「…めんどくさい…。」

「ちゃんと、言わないと伝わりませんよ?」

珍しく…、感情的になりつつある弟に気圧されそうになった…

思わず…、重苦しいため息をついた紘一…

「…お前が言えば?」

と、吉澤に笑いかけながら言った…

「…イヤです。紘一さまのことは、私が関与することではありませんし。責任負いかねますから…」

と、紘一を遺し…部屋を出ていった吉澤…

その、出ていった背を見送りながら…

「……」
《くそ真面目な奴…っ》

と、思いつつも…、この関係を続けていくことを望む以上、悠夏にも伝えなければいけないことがあることは事実だった…