「これ…、お母さまの文字だったのね?」
《だから、見覚えがある…って、思ったんだゎ…》



退院した悠夏は、書庫室で紘一から絵本を受け取った…

悠夏が、倒れたあの日…、紘一はその絵本とアルバムを元の位置に戻していた…

母の生前の文字を指先でなぞる…、ちょうどカバーの裏側に、《みさき はるか》と、書かれていた…

「なんの手がかりもなかったが…その名前が唯一の手がかり…という事だった」

その、頭上からの言葉に、悠夏は、声の方を見上げる…

「なんか、可笑しい…。」

ふふ…っと、笑っている悠夏に、理解出来ないでいる紘一…、悠夏は、そんな紘一の反応に余計笑いがこみあげてきていた…

「紘一さんが、こんなにロマンチストだったなんて…」

「ロマンチスト? 俺はただ…お前の母親との約束を…」

「…でも、この絵本をきっかけに私のことを思い出して、探してくれたんですよね?」
《信じてみよう…

もう一度…。。》


視線がぶつかり…、口付けを交わした…

以前とは違い…、悠夏の胸が高鳴ったのを感じた…


「あんな小さな手をした、女の子だったのに…」

と、紘一は、悠夏の左手を手に取り、自分の頬に這わせた…

「それは、私もまだ小さかったから…!」

「《泣かないで、はるが側にいるから》って、母親に絆創膏をねだってた。可愛かったけどな…。」

そぅ…、いつにも増して…自分と向き合っている紘一に、悠夏は、心拍数が上がっていた…

もっと…、触れて欲しい…と。。


「もぅ、そんな小さな頃の…。覚えてませんょ…」

と、拗ねたように、顔をそむけ…苦笑いを浮かべる悠夏…

本当は、紘一の顔をマトモに見られなかった…

恥ずかしくて…、自分の真意が見透かされそうで…

「俺は、覚えてたよ。」

「っそ…それは、紘一さんは、12歳だったんですもの」

動揺しながら、答えた悠夏に…

「あの頃の俺には、誰かにそう言って欲しかったんだ…今にして思えば。母親を失って、弟とも距離は離れて…
お前たち親子に、救われていた…」