「紘一さまっ! 奥さまがっ!」

病院の出入り口から、使用人の男性の呼ぶ声がし、腰を上げた…

すぐに、その出入り口の方へ向かおうとした…が、その2人の方を振り返り…

「その子、美人に育ったら、嫁に貰ってやってもいいよ!」

紘一のその言葉に、手を振っている女性…

「またねー!」


陽の光を、湛えたような女性だった…


病院の紘一の母親がいる病室にたどり着いた紘一…

母の沙也加は、呼吸器をつけられ…荒い息遣いをしていた…

紘一の姿を見つけると、安心したかのように…ホッとしたように軽く微笑んだ…

「お母さん、ごめんなさい! 僕、匡に…」

沙也加は、紘一の頬に手を伸ばし…。もう片方の手で呼吸器のマスクを外す…

「紘一、匡を許してあげてね…
お父さんを許して…。」

「お母さんっ! 1人にしないで…っ!」


頬に触れていた手が、スルスル…とシーツの上に落ちた…

ゆっくり…と、瞼を閉じた…

呼吸器の機械の音が、無機質に鳴り響いていた…


「お母さんっ!」

しがみつき、泣いていた…


紘一と匡の母親が、事故で死亡したことは、2人の胸に奥深く刻まれることになった…



その後、2人の父親の佑一朗は、紘一の精神状態を配慮し、匡と離れさせようとさせた。

…が、それを2人は望まなかった…

匡は、母親の姓に戻り…

紘一と離れた方が…という判断から、中学や高校をイギリスの全寮制の学校での寮生活を送ることとなった…