「結婚? 私がですか?」

季節は、秋から冬へと移り変わりつつあった11月初め…その日の夕食後。。

父・翔吾に呼ばれ、父の書斎に向かった。

ボルドー色の紅い薔薇が刺繍されたワンピースを身につけ…背中までの長い髪をした…美崎 悠夏(はるか) は、父の翔吾に突然、そう言われた…

「そうだ。相手の方の強い希望だ…お前と結婚させてくれ…と。」

書斎のソファに腰掛けた40代中盤くらいの男性は、神妙な面持ちで、そう答えた

そう言っている父親の表情は、硬く険しい…
娘の結婚を祝う…というような表情とは言い難い。

少し…、疲労感が溜まったような顔つきをしている…

「…そうですか…」
《父の会社の経営状態が思わしくないことは、漏れ聞こえていた

これは、政略結婚…なのかもしれない…》

と、悠夏は、その言葉が浮かんだ…



「……」
《私に、出来ること…は、こんなことくらいしかないのだ…》

…と、深くため息をついた

その次の瞬間、翔吾の方をまっすぐに見つめ…笑顔を向ける…

「分かりました。」

精一杯、笑顔を見せた。

「私、その方と結婚します」

「悠夏、行ってくれるか?」

翔吾も、少し安心したように…一瞬、表情が和らいだ…

「はい。お父さまが、決めた方ですもの。間違いはない…そうでしょ?」


翔吾も、悠夏の笑顔につられ…、満面の笑みを浮かべた…

「相手の方は、お若いが…とても優秀な方だ…。夫となるには申し分ない…」


一瞬にして、笑顔になった父に、悠夏はその表情に安堵した…