楽しみにしていた
あなたとの海外出張
水族館での出来事で全ては崩れた

あれから
仕事以外のことは何も話さない

3日目の昼過ぎには仕事も終わった
飛行機までまだ7時間程ある
時間を潰すためにカフェに入ったが
会話もなくただ目の前で
あなたはコーヒーを飲んでいる

なんでこんなに怒っているのか
そもそも怒っているのかすら
僕には分からなかった

無言が辛かった
何を言っても無視されそうだ

この際、嫌われてもいいから
最後に聞きたいこと聞こう


"この前、先輩好きな人できたって
そう言ってましたよね?
誰なんですか"


"関係ない"


関係ある
好きな人の好きな人は誰だって気になるだろ


"少しくらい
教えてくれてもいいじゃないですか"


"言う必要が無い
もう好きじゃなくなった"


"簡単に諦めちゃうんですね"


しばらく無言が続いた
もういいです
そう言おうとした時
あなたが先に口を開いた


"好きになったらいけなかった
上手くいくわけもなかった
あたしの勘違いだった
それで諦めた"


そうあなたは言った

好きになったらいけない
上手くいくわけない
勘違い

僕と同じみたいだ
ただ違うのは相手が男ということ
それだけでチャンスはいくらでもあるだろう


"なんで好きになったらいけないんですか?
気持ち伝えられるだけいいじゃないですか"


"好きだけじゃ
どうにもならないことだって
ある…の"


あなたは少し驚いた顔をして
こっちを見ていた


"なんで泣いてるの?"


何故だろうか、僕は泣いていた

あなたにこの気持ちを伝えたら
きっともう
冷たくあしらわれることすらも
無くなってしまうだろう

だけどもう
それでもいいかもしれない
昔みたいに気持ちを押し殺して
忘れるよりも
きっぱりと諦める為にも
言ってしまおうか


"関わらない方がいい
先輩の第一印象でした
いつも怒っていて、きつい口調で冷たい人で
なのにたまに、不安そうな声で自分を呼んで
少し距離が近づいたかと思ったら突き放されて
彼氏いるのにキスしてくるし
まともに理由も教えてくれないし
何考えてるか全くわからなくて
…だけど
期待してしまう自分がいた
笑ってる先輩が可愛くて
飛行機怖いって言ってる先輩が可愛くて
本当はずっと自分の中で留めておくつもりでした
好きなんです先輩が"


言ってしまった
なにか言ってよ
いつもみたいに軽く流してよ


"ごめん"


終わった
なんでそんなに悲しい声で

ごめんってなんだよ


"すみません、ちょっと頭冷やしてきます"


僕はあなたの顔も見ずに
お金を置いて
近くの公園に向かった