時には優しく…微笑みを

「…井?櫻井?」

「あ、すみません…考え事してたら、また苦しくなってきたみたいです」

いつの間にか、私はまた過去の事を考えていたようで、息が出来なくなっていた。

課長は、黙ったまま私の手を握り、その手を強く引っ張った。

「…っ、課長」

「一人で抱えるな。何度も言ってるだろ?」

私は課長の腕の中にいた。

一人で抱えるな、その言葉どれだけ私にとって心強い言葉になっていたか。
また私は課長の腕の中で泣いていた。だけど、息苦しさはなくなり気持ちが穏やかになっていた。

やっぱり、ここは居心地がいい。
この場所にいる事が許されるなら、と心の中で何度も思っていた。

「なぁ、櫻井…」

「は、はい…」

「俺たち、このまま付き合うか?」

「え?あ、いや、そ、それは…」

いきなりの課長からの告白に、私の頭はパニックになっていた。
課長に抱かれながら、このまま付き合うか、なんて…

「櫻井も色々あるだろ?その、俺が相手で、少しでも落ち着けるんなら…、俺も彩奈から守れるしな…」

「落ち着けるなら…ですか…」

それは気持ちがないから、ですか?と聞きそうになった。
そんな事を聞いてしまっては、自分が振られた事を認めてしまう。
聞けない…

って言うか、好きなの?私は、課長が。

課長に好きだから付き合うと言われなかった事に、動揺してしまった私は、課長の事を好きになり始めている事に気がついた。