時には優しく…微笑みを

「…櫻井」

課長は、私の名前を呼ぶとその腕の力を緩めた。
その緩められた腕から、抜け出た私は平常心を繕うのに、必死だった。

「コーヒーでも飲むか…」

そう言って私にコーヒーを入れてくれた。

ソファに並んで腰をかけると、課長から口を開いた。

「こんな話、聞きたくもないと思うけど、誤解はしてほしくないから話しておくよ。昨日はビジネスホテルに泊まったんだ」

「え？な、なんで…、私がいるからですか？やっぱり…」

私が話をしようとするのをそうじゃないと遮った。
私のせいじゃないと言うなら、なんなの？

「恥ずかしい話なんだけどな、前に付き合っていた女性問題なんだ。この間、出かけた時に久しぶりに会ってね」

…やっぱり、あの時の彩奈さんが元カノだったんだ。
ん？じょ今カノって…

「ま、早い話が元サヤ戻りたいって言われてな。断ったんだが、しつこくて…昨日は朝から会社に行くから、そこで話がしたいって言うから、外で会ってたんだ。それでも納得しなくてな、夜もまた会っていたんだ。何回言っても全然通用しなくて参ったよ。それで、そのまま家に帰ったら家に来るんじゃないかって思ったから帰れなかったんだ。心配かけてすまん」

気が抜けた。
元カノだったんだ、と。

課長の話はまだ続いていた。

「実は別れた原因が向こうにあるから、俺の中では気持ちがないから、さっぱりなんだがな。それが信じられないらしい。俺がまだ未練があると思ってるらしいんだ。あの時、櫻井もいただろう？彼女かと言ってたくせに、自分とやり直そうって」

「そうなんですね…」

そんな事があるんだ。
でも、どうしてその話を私に？誤解してほしくないって…
また私の中では？がグルグルと回り出していた。