時には優しく…微笑みを

課長はまだ来ていなかった。

1時間は早くに出たのに…

「櫻井さん、仕事頼める?」

「あ、はい。分かりました」

仕事しなきゃ…

課長は現場から会社に向かうと、電話があったらしい、と新城さんが言っていた。

課長が来たのは、休憩時間に入ろうとした時だった。

「遅くなってすまない。何かあったか?」

「いや、何もないですよ。私達は休憩入りますけど、菅野課長はどうされますか?」

「いや、俺は来る途中で食べてきたから、いいよ。休憩に入ってくれ」

金澤係長と話をしていた課長が、一瞬私を見たような気がした。
でも、ほんの一瞬。
私の気のせいかもしれない…。仲川さんから連絡があった事を伝えようと思ったけれど、周りの人が多いから伝えるのを止めた。

少し課長が気になったが、私はそのまま休憩に入った。

食堂で一人ランチを食べていると、七海がやってきた。

「朋香、今どこに居るの?」

「え?あ、ウィークリーマンションかな」

「そうなんだ。いいところ見つかりそう?」

「うん。今日、希望に合うところが見つかったって連絡があったんだ。だから早くに移れそうだよ。ちょっと安心したかも…」

「そうなの?よかったじゃん。でも、ダメだったらさ、輝に話をしたら実家に帰ってもいいよ、って言ってくれたから、朋香に言おうと思ってたの」

え?

「輝?輝君?な、何?」

「ん?あぁ、輝に話をしたらね、困ってるなら俺が実家に少しの間帰るって言ってくれたの。ほら、私の実家は埼玉でしょ?だから通える距離じゃないしさ」

「七海ぃ、なんでそんなに優しいの?」

会社だという事を忘れて泣きそうになっていた。

「もし、決まりそうになかったら言ってね。輝はいつでもいいよ、って言ってるから」