「そっ…そうなんですか。じゃあ、良かったらリュウ君と一緒にウチで晩ごはん食べませんか?ワイワイうるさいですけど、ご近所さん達もいますし」
笑顔を作り、スラスラと出てきた言葉。
だけどそれは、自分の意思とは少し違うものだった。
そう言わなければいけない空気を読んだ、というのが正しい表現だと思う。
あんな風に言われて、そうなんですか、この近くには飲食店はないので駅前まで出れば色々ありますよ、とか。
あそこのお店が美味しいですよ、とか。
食事出来そうな場所を教えて、そこをすすめるなんてこと、私には出来なかった。
でも、心になんの曇りもなくすんなりと「良かったら」と言ったわけではない。
リュウ君ママに対して、そんな風に言われたら…と思ってしまったところはあった。
もし、私が同じ立場だったら。
引っ越してきたばかりの土地で、その日に出会ったばかりの初対面の人の家にお邪魔するなんてことは、しないと思う。
互いに、まだまだ知らない関係。
見えない壁は、確実にある。
だけどリュウ君ママはいとも簡単に、その壁を越えてきた。



