表玄関を出て、徒歩十数秒。
急ぎ足だったり歩幅が大きければアパートの前までたどり着くまで十秒もかからないかもしれない。
二階へ上がる階段を登る前に一階に取り付けられていた郵便受けを一度確認してみた。
101は吉井。102は井口。
201は鈴木で…202の郵便受けだけ名前が付けられていない。
それを確認した私は階段を登ると奥の202号室へと歩みを進め、ひとまずインターホンを押した。
すると、すぐに玄関のドアが開いた。
「はーい」
ややキーが高めの声。
目の前に現れたのは、セミロングヘアのふわふわしたゆる巻きが似合う、可愛いらしい女の人だった。
「あ、突然すみません。サイトウさんのお宅ですか?」
「はい、そうですけど」
キョトンとした顔で私を見つめる瞳は、くっきりした二重まぶたと長いまつ毛が印象的で、同性なのになんだかドキッとしてしまうほどだった。
「あの、私、すぐそこに住んでる工藤という者なんですけど」
「あ、はい」
「今、リュウ君がうちのお庭で遊んでて」
「あ!リュウが!?お外に行ってくるって出ていったなぁと思ってたら、すみません…。業者さんがガスの開栓に来るので、立ち会わないといけなくて」
ぺこっと頭を下げたその人は、遠慮がちに言葉を続ける。
「本当に申し訳ないんですけど、開栓作業が終わればすぐ迎えにいくので、あと少しだけリュウ、お庭にお邪魔させてもらっててもいいですか?」
そう頼まれたら、断るなんてこと、頭に浮かばなかった。
引っ越してきたばかりの人だ。
ご近所さんになるのだから、協力出来ることはしてあげたい。
素直に、そう思った。



