「よし!亜実と亜矢が飾り付けしてくれたことだし、ママは早くご飯の用意済ませなきゃね」


時計を確認した私は、抱えていた亜矢をそっとソファにおろすと慌ただしく夕飯の準備を始めた。

夫である大地の帰宅時間は、何も用がなければいつもだいたい七時過ぎ。
それまで約二時間。それだけあれば食事の用意は十分間に合う。

昨夜から下ごしらえ済みのものもあるし、大地が帰ってきたタイミングで全てテーブルに並べられるようにしておこう。

…そんなことを考えていた時だった。

カウンターに置いていたスマホが音を鳴らし、液晶画面を確認した私は濡れていた手をタオルで拭くと急いで電話に出た。


「もしもし」
「あ、亜紀?今何してた?」
「今?ご飯の用意始めようとしてたところだけど」
「お!始めるとこだった?良かった、間に合って」


耳元で聞こえる、ホッとしたような大地の声。
良かった、間に合って?
もしかして、残業になった?接待でも入った?

一瞬で、浮かれていた気持ちが落ちていくのを感じた。

やっぱり朝、言っておけば良かったかな。
毎年欠かさずこの日を覚えていてくれたから、油断していた。