マリッジリング〜絶対に、渡さない〜


その夜はずっと、夢のような時間が続いた。

シャンパンで乾杯して、二人で選んだ赤ワインを飲んで。
前菜から始まったコース料理はどれも美味しいものばかりだったし、子供たち用のお子様プレートも華やかな雰囲気に盛り付けられていて、二人とも嬉しそうに次々と口に運んでいた。

食後に出されたドルチェプレートには、
‘‘10th Wedding Anniversary’’というメッセージがチョコレートで描かれていた。
幸せな思い出が、また一つ増えた夜。

「良かったら、お写真お撮り致しましょうか」

気の利いたウェイターからの言葉に、家族四人での記念と、珍しく夫婦二人でも写真を撮ってもらった。


「本当に大丈夫なの?すっごく高かったんじゃない?」
「大丈夫だって、この日のために一年前からコツコツやってたんだから」


二時間ほどの食事を終え、お店をあとにした私は、エレベーターに乗ると同時に緊張感から解き放たれたように話し始めた。


「えっ?一年前から?」
「そ。小遣い制の身としてはそこからこっそりやりくりするしかないじゃん。だから長期計画でコツコツな」
「…そうだったんだ」


ホテルを出てタクシーに乗ってからも、私たちの会話は家に着くまでずっと続き、その話の中でわかったことがたくさんあった。

十年目の記念日くらいはサプライズを仕掛けてかっこつけたかったとか。
仕事では付き合いの多い立場上、飲みに行く機会や誘いも多い中、大地はこの日のためにここ一年くらいは何度かそれを断ったり、うまく誤魔化して二軒目には行かなかったり。

月々決まった金額ではなかったらしいけど、渡したお小遣いの中からコツコツと貯めてくれていたらしい。