一瞬の出来事に、正直すごく驚いた。
手を繋ぐなんて、いつぶりかも思い出せないくらい久しぶりのことだ。
「ど…どうしたの」
突然のことに、びっくりし過ぎていたんだと思う。
気付けば私はそう口にしてしまっていた。
「どうしたって、たまには繋いどこうかなって思っただけだけど。何?嫌なの」
少しムッとしたような声に、私は慌てて口を開く。
「や、嫌…じゃないけど」
「けど?」
「なんだろ…恥ずかしい。照れる」
「ははっ、それ俺だって照れるっつーの。でも、やっぱこういうのも必要じゃないかなって。十年経っても手を繋いでいられる夫婦、理想だったから」
大地はそう言うと、繋いでいた手をぎゅっと握ってきた。
十年経っても手を繋いでいられる夫婦。
私も、それが理想だった。
結婚した頃、思ってた。
ずっと変わらないでいたいって。
歳を重ねて、おじいちゃんとおばあちゃんになっても手を繋いでいられるような夫婦で在りたいって。
だけど、理想と現実はいつからか違うものになっていて。
一緒にいる時間が長くなっていくにつれ、触れ合う時間は少しずつ減っていったような気がする。
手を繋がなくなったのは、いつからだったんだろう。
こんな風に手を伸ばせばすぐ掴める場所にあったのにな…。



