それでも、鏡に向かってなんとか笑顔を作ってみたのは、彼女に不安や焦りを感じとられたくなかったからで。
鏡の中の自分の笑みを確認すると、大きく深呼吸してから玄関のドアを開けた。
『すみませーん、いきなり来ちゃって』
するとすぐに表玄関の門の向こうから甲高い声がとんできた。
内心ドキドキしていたけれど、そのまま表玄関まで歩みを進めるとごく自然に笑顔を浮かべ門を開けた。
『目が腫れぼったいのは気にしないでね、ちょっとお昼寝しちゃってたんだ』
ベストな状態ではないことをあえて伝えると、彼女は笑顔で首を振って。
『全然腫れてないですよ?むしろ今日もめちゃくちゃ綺麗です』と、お世辞じみた言葉を口にして、ニコッと白い歯を見せた。
真っ直ぐ繋がる瞳に、何故か動揺する心。
私をジッと見つめた彼女は、手にしていた黒い紙袋を私に差し出した。
『な、何?』
『お礼です』
『お礼?え、何の…』
『昨日、リュウのことでお世話になったので、そのお礼です』
彼女はそう言うと、私の手に無理矢理紙袋を持たせて。
『おかげ様で、朝には熱も下がって元気になりました。ありがとうございました』
こちらの調子が狂うほど、丁寧にお辞儀をされた。



