そんな亜実の笑顔によって、私はハッと我に返った。
私は、母親なのだ。
いくら大地やリュウ君ママに苛立っていたとしても、子供達の前でそんな姿を晒してはいけない。
モヤモヤする本音を、一人ぶつぶつ愚痴みたいにこぼすようなこと…やっちゃいけない。
今みたいなことは、絶対にしちゃダメだ。
『よし!じゃあ亜実、そろそろご飯にしようか』
『あれ?パパは?』
『パパ?』
『うん、ママがカバン持ってるから、帰ってきてるんでしょ?』
ウソをついてはいけない。
そう教えている立場なのに、自分がそれを守れないことが歯痒くなる。
『あぁ、うん。帰ってきたんだけど、用事があるみたいでちょっと出かけてくるって。だから先にご飯食べててって』
本当のことは、何故だか言いたくなかった。
リュウ君の熱のことを伝えれば、亜実は心配するに決まってる。
と同時に、だからってどうしてパパが一緒に行ったの?と、万が一にでもそんなことを感じるようなことがあれば、嫌だと思ったからだ。
きっと亜実はそんなこと微塵も思わないだろうけれど…念のため、本当のことは言わないでおいた。
『そっかぁ…じゃあ、先に食べよ!お腹ぺこぺこ!』
『本当、ぺこぺこだね』
はじけるような笑顔に救われリビングに戻ると、私たちは三人だけで先に食事を済ませた。
けれど、普段は四人で囲んでいる食卓に、たった一人いないだけでも、その存在感はものすごく大きくて。
大地がいつもの場所に座っていないだけで、何かが大きく欠けたような、寂しい気持ちになった。
そしてそれは、私だけではなかったようで…
『パパまだかなぁ〜』
『おそ〜い!』
お風呂から上がってもまだ帰ってきていない大地が気になるのか、二人して私にくっついてきてパパは?と珍しく甘えてきた。



