法務の女性管理職の沢田さんは明らかにエリートだ。

以前、沢田さんは気が付いたら、自分より役職が同じか上の社員は皆既婚者になっていて、しかも自分はいつの間にか年上の部下を抱えている状況になっていたと言っていた。

「仕事は楽しい、それに忙しくて毎日があっという間。おまけに子どもを産んだり育てたりする自分の姿も想像できないから結婚なんてしなくていいって思ってたんだけどねー」


「ただこの年になったからなんだろうけど、最近気が付いたの。誰かの隣で年をとっていくのも悪くないんじゃないかって」

誰かの隣で年をとっていく
そう言う沢田さんは相手探しを焦っている風でもなく、何だか楽しそうに見える。

「出会いを期待してみるわ。別に結婚にこだわりがあるわけじゃないから同棲でもいい。でも不倫はだめ。
ハゲでもデブでも結構な年齢のおっさんでもいい。空気感と性格重視ってことで。
あ、ヒモとかホストとかこっちが貢ぐ系はゴメン被るけどね。出会いがなければ今まで通りこの生活を楽しむ。でも出会いのチャンスを逃す必要もない。もしかしたらイケメンに出会うかもしれないし?」
沢田さんはケラケラと笑いながら隣にいた松下さんの腕をバンバン叩いている。

「痛いですよ、沢田さん」松下さんはそう言いながらもよけずに沢田さんの攻撃を受け止めていた。

「穏やかな空気感が欲しいのよ。若者にはわからないと思うけどね」

「・・・沢田さん、朝から酔ってませんよね?」
松下さんの視線に沢田さんは「飲んでないし、昨日のお酒も残ってないわよ」と大笑いした。

「とにかく、これからは出会いのチャンスは逃さないから。じゃあまた後で」
ひらひらと手を振って沢田さんはラウンジを出て行き、私と松下さんはその姿を見送った。

「沢田さんのあれ、マジですか?」
「うーん、確か一人の男と生涯を共にするなんてまっぴらごめんって言ってたの先週だったよね?」
私たちは顔を見合わせ首をひねった。
沢田さんに何かあったんだろうか。