手際よく片付けられて何もなかったようにきれいになったエントランスの床を確認してため息をつきたくなるけれど、ぐっとこらえて声を出した。

「ありがとうございました。余分な時間を使わせてしまって申し訳ありません。これからは気を付けます」

「いや、怪我がなくて良かった。明日の朝もよろしく頼む」
そう言うと、私のことをちらっと見ただけで男は割れた花瓶の入ったごみ袋を片手に素早く玄関から出て行った。
真紀にはゴミの処分すらさせないのか。

なんだかもう本当にバカみたいだ。
イライラした挙句、さらにイラつく原因を作って。
もう一度バッグを投げつけたい衝動に駆られるけれどぐっっと堪えて唇を噛んだ。

何も感じないように鋼の心を持たなくては。
真紀の恋がうまくいって影武者が終われば今度こそあの男との縁が切れる。
会わなければ心も乱されないだろうし。
もう少しの我慢。
もう少しの。


ーーーその日から今まで顔の表情にだけ張り付けていた仮面を私の心にまで張り付けるようにして心も鋼で覆うことを強く意識した。