静かにドアを開けるとダウンライトが点いているだけの薄暗いリビングがあり、そこも無人だった。
広いけれど、生活感がない。

キョロキョロしているとおもむろに目の前のドアが開いてスウェットパンツにTシャツ姿の真島さんが入って来た。

「起きたのか」
「きゃっ」
いきなりの登場に驚いて一歩下がってしまった私を見て真島さんの口角が少し持ち上がりくすっと笑われたのがわかった。

シャワーを浴びたらしく髪はまだ濡れている。ヘアセットしていない真島さんのこんな姿は見たことがなくて…ヤバい。ちょっと、いやかなりヤバイ。
色気がすごくて顔を上げられずうつむくしかない。

「すみません私…眠ってしまって。ご迷惑おかけしました」

「謝らなくていい。寝てもいいと言ったのは俺だ。そのまま朝まで寝ててもよかったのに」
軽く笑われているような気配に顔を上げると、やはり真島さんは笑っている。

驚きだわ。この人の笑顔なんて何年ぶりに見たんだろう。

「そんなわけにはいきません。すぐに帰ります。えーと、私の荷物はどこでしょう?」

リビングの中を見回しても私の荷物らしきものはない。

真島さんがまたくすりと笑う。
「朋花が勝手に帰らないように隠しておいた」

「は?」

「とりあえず水分補給しようか。水?コーヒー?ああ、酒でもいいよ」

「な、なに言ってるんですか。帰りますから荷物下さい」

今何時か、ここがどこなのか、私の荷物はどこにあるのか、真島さんが何を言っているのかとかいろいろ意味不明で混乱しているものの帰らなくてはいけないことだけはわかっている。
とりあえず荷物を返してもらいスマホをいじれば現在時刻とここの位置情報がわかるはず。

真島さんの前に右手を出してちょうだいのポーズをしたのだけれど、真島さんはその手を見てフッと笑っただけで背中を向けてリビング奥のキッチンに向かって歩き出してしまった。

「え、ちょっと真島さんってば」

まさか荷物を返す気がないってこと?
嘘でしょ。