ふと見上げた視界に
壱星の部屋の明かりが見えた。
その瞬間、閉ざされたカーテンの向こう側に
人影が揺れて、あたしは焦って言葉を探す。
「ママから、この前のお礼にって!」
「そう、ありがとう。」
「いえ、じゃあ、」
あたしは何をこんなに恐れているんだろう。
でも、早く帰りたい。
壱星に見つかる前に、早く。
「あ、流璃ちゃん!」
背を向け、自分の家に足を進めると
おばさんの声が、あたしを引き止めた。
「私も、渡してもらいたいのがあるのよ。」
「え?」
振り返ったあたしに
「すぐ用意するから、あがって!」
そう言ったおばさんが手招きする。
「いや、あの、」
丁重に断ろうと試みるも
「何今更、遠慮しないで!」
壱星に似たその笑顔が、あたしを帰そうとはしてくれなくて。
「じゃ、じゃあ…少しだけ…。」
結局、強引なおばさんに
根負けしたあたしは、壱星の家の玄関を潜った。

