「流璃~。」
「何ぃ、今忙しいー。」
二階にあるあたしの部屋に
階段下から呼ぶママの声が響く。
つまんないテレビ番組に視線を置いたまま
それでも適当に返事をし続けていたが
「流璃ったらーっ!」
あんまりにもママがしつこく呼ぶので
あたしは仕方なく、のそのそと階段を下りた。
「んもー、何!」
リビングに入るなり、悪態をつくあたしに
いそいそと夕飯を作る手を止め、ママがパタパタとスリッパを鳴らす。
「んもーじゃないでしょ!何度も呼んでるのに。」
ぶつくさと愚痴りながら
ママはあたしに、はい、と紙袋を差し出してきた。
「何?」
紙袋を覗き、ママに目配せをする。
「羽鳥さん家に持ってって。この前のお礼。」
そう言って、ママは再び夕飯作りに取り掛かる。
羽鳥とはもちろん、壱星の事で。
この前のお礼とは
きっと、茶道の時にもらった和菓子の事だとすぐさま理解した。
だけどあたしは迷わず口にする。
「はぁ!?何であたしが!」
「何でって、ママは夕飯作らなきゃいけないからじゃない!」
お腹空くとパパが不機嫌になるでしょ?
背を向け、ママはさも当然かのように言った。

