「流璃。」
「違う、全然違う!」
「は?何言ってんだ、お前。」
一人妄想に更けていたあたしは、その声に現実へと引き戻された。
「ぎゃっ!!!」
思わず目の前に居る壱星に後退りする。
その拍子に、タンスに頭をぶつけたけど
もはやそんなの気にならない。
「んな色気ねぇ声出すな。」
「ななな、何してんのよここでっ!」
ピンクのカーテンに
くまのぬいぐるみ、壁に掛けられたセーラー服。
そう、ここは
紛れもなくあたしの部屋で。
「何って、これ渡しに。」
そんな事を気にする様子もなく、壱星はほれ、と紙袋を渡してくる。
「何よ、これ。」
「さぁ。母ちゃんがくれた。多分和菓子だろ。」
「あたしに渡さないでママに渡してよ!」
「おばさんがお前に渡せって言ったんだぞ。」
…ママのやつ~っ!
それ以上何も言えなくなったあたしは、渋々紙袋を受け取った。
壱星のおばさんは、趣味で茶道を習っていて
よくこうして余った和菓子をくれる。
甘いのがあんまり好きじゃない壱星は、くれるだけで自分は一切食べないのだ。

