「どうしてそんなこと知りたいの?」


吉沢くんが首をかしげて微笑むたびに髪がさらりと揺れる。


「分からない。ただ、何となく。」

「ふーん…」


私の返事に納得したのかしてないのかよくわからない反応をしながら、吉沢くんは私の右手首から手を離した。

思わず、自分の右手をじっと見つめる。



「俺もね、なんとなくだよ。」

「なんと、なく?」

「うん。教室でずっと座って授業受ける意味が分からないから何となくここで時間潰してる。」

「でもそれじゃあ単位とれないしテストで点もとれないよ。」

「そこはちゃんと考えてるから。俺だっていつも教室にいないわけじゃないでしょ?」

「まあ…たしかにそうだね。」



一通り会話が終わると私たちの間に静寂が訪れた。

ベッドに腰掛けている彫刻みたいに美しい人と、
その人を目の前にして突っ立っている私。

改めて考えると本当におかしな光景だ。



「あのさ、笹本さんって真面目?」


そんな静寂を破ったのは吉沢くんの声だった。



「なんでそんな事聞くの?」

「んー、何となく。こうして俺なんかを呼びにきたりもするし、単位とかテストとか言ってたし。」

「吉沢くんを呼びに来たのは先生に言われたからだし、単位とかテストとか普通の人なら気にするよ。だから私は別に真面目じゃない。」

「ふーん、なるほどねぇ。」


すると、吉沢くんは、また布団をかぶりベッドに潜り込もうとする動きを見せた。


「あ、ちょっと、せっかく起きたなら戻ろうよ。」

「えー、やだ。委員会決めとか、別に俺行かなくても何とかなる。」

「そんなことないよ。みんなで決めよ?」

「どうせ行っても行かなくても何かの委員会に割り振られるんでしょ?だったら何でもいいよ。どうせやらないし。無駄な労力使いたくない。」

「何でそんな事言うの?ねぇ、行こうよ。」

「じゃあ、そんなに連れて行きたいなら布団を無理矢理剥いででも連れて行けば?」



そう言い残し、吉沢くんは頭まですっぽり布団を被ってしまった。

ここまで時間を使ったのに「連れて帰れませんでした」なんて先生に言ったら、今まで何をしてたのか不思議がられてしまうのは確実だ。

であるならば、何としてでも連れて行く。



「吉沢くん!起きて!行こう!!」



布団を力いっぱい引っ張ってみるが、吉沢くんは見かけによらず馬鹿力を持っているようで全然ビクともしない。

負けじと引っ張るが本当に動かない。

もうダメかと思ったその時。



布団の中からかかっていた力が一気に抜けた。

そして、一瞬のうちに吉沢くんの手が私の腕を引いて___




唇に柔らかな感触を感じたときはもうすでに遅かった。

唇を離し、目の前の吉沢くんが
美しくもどこか不敵な笑みを浮かべた。

そして、逃げるすきも与えられず、何度も何度も唇を奪われる。



「んっ…は、吉沢、く…」



突然すぎる出来事に、私はただ吉沢くんの胸を叩いて抵抗するので精一杯だった。


「っん…はぁ…」


息がうまく吸えなくて苦しい。

さすがに強く叩くと、やっと唇を離してくれた。


もう、何が起きたのか全く分からない。
何でこんなことになったのか…。



「なんなのっ…」


体内にたくさん酸素を送りながら、
悔しさと怒りで吉沢くんをじっと睨みつける。

しかし、そんなの全く効いていない様子の吉沢くんは。



「さあ?なんとなくかな。」



そう言って美しく不敵な笑みを浮かべ、私の唇をぺろりと舐めた。

そして、授業の終わりを告げるチャイムの音が鳴り響いた。