「新庄さんね、会社と社長を捨てて夢を取ったっていう話なんだよ」

「……え?」

 私が振り返ると、彼女は「しーっ」と言うように口元に人差し指を当て、もう一度声を落とした。

「彼女、自分のブランドを立ち上げるためにフランスに修業に行ったんだって。それで、社長がフラれたって話」

「……社長と新庄さんて、付き合ってたんですか?」

「公言はしてなかったけど、みんなそう思ってるよ。だってめちゃくちゃ仲良かったし、お互いに名前呼びだったし。新庄さんはみんなのことを名前で呼んでたけど、社長が名前で呼ぶのは彼女だけだったもん」

 ずきりと鈍い痛みが走って、私は胸に手をあてた。

 なに、今の。

「そう……なんですか」