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穏やかな日差しが降り注ぐ正午過ぎ、風に運ばれてきた薄ピンク色の花びらが目の前をひらひらと舞っていった。
コンクリートとアスファルトに覆われた大都会でも、桜はどこかで咲いているらしい。
食べ終わった弁当箱に蓋をして晴れた空を見上げる。会社の近くに見つけた小さな公園から見た空は、地元と違ってとても狭い。
水筒のお茶を一口飲み、ポケットからメモ帳を取り出した。午前中に内藤さんから教わった内容を思い出しながら、細かく書き込んでいく。
余白がないくらいびっしり並んだ自分の字を見ながら、ため息が落ちた。
いろいろと教わる前に、まず私は文字入力がとにかく遅い。パソコンのキーボードを打つのに指の置き場所が決まっている『ホームポジション』なるものがあるとは知らなかった。

