相手は社長なのだからもちろん男性だ。だけどそんなことを言うとますます追究されそうだと思った。

 言葉に迷っていると、名取さんが整った顔をわずかに歪める。

「おいおい、本当に大丈夫かよ。前原ちゃん、だまされやすいタイプなんだからさぁ」

「ちょっと名取、なに興奮してんのさ」

 ミルクティーを飲み終わった板倉さんが、パックをつぶして近くのゴミ箱に放った。

 お盆が明けたばかりということもあって、社内にはほとんど人が残っていない。上の階のシステム部には明かりが灯っているけれど、一階のフロアには私たち以外誰もいなかった。

「だってさ、俺んちでもよくない? 今ならまだ間に合うよ前原ちゃん」

 どこか必死な顔で、名取さんが詰め寄ってくる。