洗濯物を干し、社長の部屋以外のすべての場所に念入りに掃除機をかけ、バスルームを磨き上げると正午を過ぎていた。

 昼食を作ろうかと思ったけれど、どうにもお腹が空かない。

 それならばと、書棚から読みかけの本を取り出してページをめくったけれど、ちっとも集中できなかった。

 ため息が落ちる。

 もともと広い部屋だけれど、社長がいなくなると途端に静かになる。

 母と妹と三人で暮らしていた2LDKの狭いマンションが急に恋しくなって、私は頭を振った。これからひとりで生活をしようという人間が、これくらいのことでホームシックになってどうする。

 気持ちを奮い立たせて二階の自室に向かおうとしたら、玄関の方で物音がした。ガチャガチャと開錠音がして、私は上ったばかりの階段のステップを駆け下りる。