前職はモデルとして活動していましたが思うところがあって転職を決意しました、とか。ありえそう。

 二十代後半から三十代といった感じの彼は、それらの理由でとても目立っていた。行き交う転職希望者たちの、特に女性たちの視線を釘付けにしている。

 そんな彼と、目が合った気がした。

 切れ長で人を魅了するような力のある目がまっすぐ私を見据え、そして優しく崩れた。

 ふいに向けられた柔らかな微笑みに背筋を何かが駆け上がり、心臓がきゅっと音を立てる。

 もしかすると私に笑いかけたのではないのかもしれない。そう思うのに、胸の高鳴りは止まない。

 視線を逸らせずにいる私にどことなくいたずらっぽい笑みを残して、その人は通路の向こうへと歩いていく。