「遅い! 看板出しとけって言っただろうが。それと注意書きも。人が群がってけが人でも出たら」
怒鳴り声を聞きながら、私の目はどうしてもその唇に吸い寄せられてしまう。
くっきりとした顔立ちの中で静かに存在を主張する、形のいい唇。これまでは印象の強い瞳の方に視線を持っていかれがちだったけれど、社長の唇は厚みがあって柔らかくて……。
「おい、聞いてんのか!」
ふいに顎を掴まれて、鋭い眼光と視線がぶつかった。
「は、はい! すみません!」
睨むように見下ろされながら、私は思い直す。
数時間前にキスをしたとは思えないほど、社長は普段通りだ。むしろいつもよりピリピリしている気がする。甘い気配もなければ照れもなく、ふたりだけの合図みたいなものも、一切ない。

