ふと周囲からの視線に気づき、私は息を詰めて目の前の椅子を引いた。

 バッグを抱いて体を縮め、席に着きながらさりげなくあたりに目をやると、私を見ていた社員の人たちは思い出したように手元の作業に戻った。

 四月になって通勤途中の街中には私と同じように着慣れないスーツをまとった若者がたくさんいたけれど、この会社には新入社員はいないのだろうか。

 視線を感じなくなった隙に、きょろきょろとあたりを見回してみる。

 おもしろい構造のフロアだった。

 各階に一部屋ずつしかないこのビルは円筒形で外観からして変わっていたけれど、内装も私が思い描いていたオフィスとは少し違っている。

 メゾネットタイプとでもいうのか、吹き抜けになっているフロアの真ん中にスチール製のらせん階段が設置されていて、一階と二階に分かれていた。