「なんにも入ってない……」
大きな冷蔵庫なのにミネラルウォーターとちょっとした調味料が入っているだけで、食材の類は見当たらない。
なるほど、と頷く。社長は料理をしないタイプだ。
雑然としていた部屋の様子を思い出しながら、らせん階段の上を振り返る。仕事では合理的で迅速かつ的確な判断を下す社長だけど、どうやら身の回りのことをするのは苦手らしい。
「……よし」
家賃はいらないと言われ、それでは申し訳なさすぎるから、どうにかねばって光熱費だけは支払わせてもらうことになった。でもそれだけでは絶対に足りないと思っていたのだ。
いくら住宅手当だといっても、甘えすぎるのはよくない。
家賃を受け取ってくれないのなら、私が提供できるのは労働力だけだ。
バスルームに洗面台、キッチンに応接ルーム。社長の部屋以外のあらゆる場所をざっと確認してから、持参したエプロンを身に着けてぎゅっとひもを締めた。

