「口紅、ありがとうございます。顔が明るくなるから、重宝してますよ」
黒ガラスの社長デスクにパスタの容器と飲み物を置いていると、真正面に座った社長が肘をついたまま左手の人差し指をくいくいと動かした。ちょっと来いと言うような仕草に、私は身を乗り出す。
「なんですか?」
その瞬間、伸びてきた親指にぐいと唇を拭われた。
「なっ、なにするんですか」
はっとして、右手の壁を振り返る。インテリアとして飾られているステッカーミラーの中で、メイク控えめな私が唯一きちんと塗っていた口紅が発色を失っていた。
「ああ! さっき塗ったばっかりなのに」
「……外ではするな」
ぶっきらぼうにつぶやいた端正な顔をまじまじと見つめる。

