「ある? どういう意味ですか?」
さらに突っ込んだ質問をする営業マンに社長は少しだけ口ごもり、やがてやけを起こしたように言い放った。
「住宅手当があるんだよ。……新人限定の」
「え、ええーっ⁉」
目を丸めている同期ふたり組を無視して、社長は私を見下ろした。何かを言いたそうな鋭い視線が胸を突き刺す。心臓の鼓動が、さらに速くなる。
「知らない」とか「聞いたことがない」と騒ぎ始める同期のふたりが気づかないくらいのほんの一瞬、社長は不貞腐れたように唇を曲げた。それからすぐに厳しい表情に戻る。
「とにかく、前原のことは俺がどうにかする。お前たちは心配するな」
そう言って、社長は腕時計を気にしながらフロアの奥に消えていった。

