名取さんが嬉しそうに言ってポケットから携帯を取り出した。止める間もなく操作して耳に当てる。
「まっ」
私が手を伸ばすよりも早く、大きな手が名取さんの携帯を掴んだ。
「必要ない」
いきなり携帯を奪われて、さすがの彼も驚いたように振り返る。社長は終了ボタンをタップすると、呆気に取られている営業マンに無言のまま携帯を返した。
切れ長の目がまっすぐ私に注がれて、心臓が鳴る。
社長はさっきまでの寝ぼけ顔から、はっきりと覚醒していた。凛とした目で睨むように私を見ている。
「必要ないって……でも社長。前原ちゃんが」
名取さんが戸惑ったように口にすると、わが社のトップは不機嫌そうな顔のまま静かに言った。
「前原の部屋なら……ある」

